佐賀市木原の矢ヶ部医院│医療法人純伸会

在宅医療の目指すもの


院長ブログ 2 在宅ケア・医療ー②

在宅ケア・医療はご自宅や老人介護施設などで療養生活をしていただくために医師や看護師、薬剤師、リハビリ担当スタッフ、その他のスタッフが出向いてケア・治療を行います。前回のブログで述べたように、どなたでも在宅でケア・医療を受けていただけるわけではありませんが、ご自宅で療養生活を送りたいと考えていらっしゃる方やそのご家族の方はご相談していただければと思います。

在宅ケア・医療を行うにあたって私たち在宅支援に関わる人々が目指していることは、療養環境の中でなるべく安楽に過ごせる場所を提供したいということです。

生活の自由度

入院生活はきちんとした食事・排泄・身体状況の管理を受けることができますので、病気の治療には有利な点が多いですが、団体生活という側面はどうしても外せません。起床や就寝、食事などの時間など生活リズムを自由に変更できなかったり、面会の制限があったり、テレビ・ラジオの音を制限したりなど、生活の自由度についてはどうしても制限がかかります。お子さんやお孫さんで幼い子供がいらっしゃる時などは病院ですと面会に子供を連れて行ったらうるさがられないかと気がひけるかもしれません。

病気やけがが重症で治療を最優先にするべき状態なら生活の自由度は制限してもやむを得ないかもしれませんが、病気が比較的落ち着いている場合や、治療による改善が困難な場合には療養環境として生活の自由度はより重要になってきます。

ご自宅で過ごしていただければ起床や就寝、食事の時間は自分のリズムで決めていただいて良いですし、人が訪ねてくるのも、テレビやラジオの音もご自分や家族で決めて良いことになります。幼い子供さんに会いたい時でもご自宅ですとゆっくりと会えます。

人の社会的役割

入院中の方は社会的な役割を喪失して、一人の「患者さん」になってしまいます。病室で寝泊まりし、看護師たちの観察下で過ごす生活です。病気が重症な時はそれはとても大切なことです。病気が悪化した時には早く変化に気づいてもらえます。その一方でご自宅では「患者さん」ではなくなります。男性であれば妻に対しては「夫」子供に対しては「父」父に対しては「息子」隣人に対しては「隣人」として社会的な役割が備わっています。在宅でケア・医療を選んでいただくことで、「患者さん」を卒業してそれぞれの役割を取り戻すことができます。

このような療養生活上の自由度が増えることが在宅ケア・医療の利点です。

在宅医療でのそれぞれの疾患に対する治療

前回のブログで以下の状態の方々について在宅ケア・治療を行なっていることが多いとご説明しました。

1.心不全や呼吸不全、神経難病などの病気があっても状態が落ち着いていらっしゃる方。

2.がんなど根本的な治療が困難な状態で緩和中心の治療を行なっている方。余命が短いと予想される場合(ターミナル期)も。

3.認知症や老衰などがあるために病気が比較的深刻であっても入院に耐えられない方。

どのような視点で在宅ケア・医療を行なっているか

1.心不全や呼吸不全、神経難病などの病気があっても状態が落ち着いていらっしゃる方。

心不全や呼吸不全、神経難病は現在の医学では完治に持っていくことは難しいです。それぞれの状況に合わせて最適な治療を選んで状態を落ち着けることを目標に治療します。また、状態が悪化することがあり、中には急激に悪化してしまうこともありますので、悪化する兆候が現れたら悪化を抑える治療をします。悪化が抑えきれない場合にはそれぞれの専門の病院と連携して入院が必要と判断したら入院治療の可能な病院へとご紹介します。

2.がんなど根本的な治療が困難な状態で緩和中心の治療を行なっている方。余命が短いと予想される場合(ターミナル期)も。

がんなど悪性疾患で手術や化学療法(抗癌剤)、放射線治療、免疫療法などでは治療が困難と判断された方はそのような積極的な治療はやめ、緩和治療中心の治療をした方が良いことが多いです。抗癌剤治療や免疫治療は効果は限定的ですし、副作用で却って体を痛めることもあります。高額な治療費が問題となることもあります。「がんの積極的な治療をやめる」というのは「がんに負けたことを認める」とか「命を諦める」と思われて「受け入れられないこと」と考える方もおられます。藁をも掴む思いで様々な治療法を試みていらっしゃる方はたくさんいらっしゃいます。中には先進的な取り組みとして免疫治療などを研究している機関もあります。そういった機関での研究に参加されれば世界最先端の効果をいち早く手にすることができるかもしれません。でもそれは社会的には「実験」の段階で、誰にでも勧められるものではありません。医学の進歩のためには社会的な実験は必要で大切なものですが、慎重に適否を判断する必要があります。

また、残念なことに「がんの治療をやめるということは受け入れられない」という気持ちにつけ込んで効果のほとんど見込めない治療を高額で売りつける輩が世の中には少なからずいます。眉唾ものの飲み薬に驚くようなお金を費やしている方もいらっしゃいます。

病を抱えた人やそのご家族が「病に負けずに元気になりたい。元の生活に戻りたい」という気持ちは病気と付き合う上で最も大切な気持ちであると考えていますし、好き好んで病気になる人は一人もいないことはよくわかります。しかし、この世に生まれた命はいつかこの世を去り、土に還ります。そして医学がもつ力はかなり限られたもので、最近の医学の発達のおかげでかなりの病気が昔より克服できるようにはなりましたが、やはりそれは有限のものです。

医師は専門家としてその有限を見極め、助けることができない状態の方には優しく助からないことを説明して受け入れていただくのをお手伝いする役割があると思います。

がんで積極的な治療が難しいと言っても、医者が何もできなくなるわけではありません。緩和治療は最期の瞬間までなるべく苦痛がなくなるように、過ごしやすい環境を整えることができるように行なっていきます。

3.認知症や老衰などがあるために病気が比較的深刻であっても入院に耐えられない方。

認知症もまた治療が難しい病気の一つです。この病気の難点は本人の意識がコントロールできなくなることです。認知症の方が重症の病気になって入院が必要があったとしても、入院された場合にせん妄と呼ばれる意識の混乱した状態になりやすくなってしまいます。このような場合には入院治療はやめ、あえてご自宅で療養していただく場合があります。

 

在宅ケア・医療に取り組む上での私たちの考えの一部をご紹介いたしました。

ご意見などございましたら是非お寄せください。

2017.09.12 矢ヶ部 伸也

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