佐賀市木原の矢ヶ部医院│医療法人純伸会

検査をするか?しないか?


院長ブログ4

「検査をしませんか?」とお勧めする時

病気の診断

診療所を受診される方の中には何らかの症状を抱えていらっしゃる方もいます。例えば頭がいたいとか、吐き気がするとか、足が痺れるといったような本人が感じていらっしゃる異常を「症状」と呼びます。

症状をもう少し掘り下げたお話を聞いて(問診)、目で見たり(視診)触ったり(触診)聞いたり(聴診)するなど体の診察をして(理学所見)、症状から考えられる病態、病名を推察していきます(臨床推論)。

臨床推論とは病気の可能性を考えます。推論から考えられる病気は一つとは限りません。複数の可能性を考えることが多いです(鑑別診断)。考えられる病気とそれらの病気のふるい分けに対して有効と思われる検査をご提案します。

そしてそれらの検査の結果、診断を下して治療に結びつけるのです。

 

実際の例

症状

お腹が痛む

問診

いつから痛みますか?

ここ数日、3〜4日ほど

吐き気は伴いますか?

いえ、吐き気はありません。

食事の前と後とではどちらが痛みますか?

食事前の方が辛いです。食後はいくらか和らぎます。

ふらつきは感じますか?

いいえ。

下痢や便秘はありますか?

いいえ。最後は今朝お通じがありました。

便が黒くなかったですか?

そういえば少し。

便は赤くはなかったですか?

いえ、黒っぽかったです。

痛むのは、お腹の中でももう少し細かくいうとどのあたりでしょう?上とか下とか・・・。

みぞおちのあたりですね。

診察(理学所見)

心窩部(みぞおち)に軽度の圧痛(押したら痛む事)あり

眼瞼結膜(下まぶたをめくって見える裏)やや貧血気味

脈拍  正常

心音  正常

呼吸音 正常

臨床推論

みぞおちに痛みがあり → 消化管のトラブル、心臓のトラブルなどが心配

食前の方が辛い    → 胃酸分泌亢進による胃の病気の可能性が考えられる

便が黒い       → 消化管出血(胃や腸などから血が出る事)の疑いあり

眼瞼結膜が貧血気味  → 何らかの出血性の病気や造血の障害の可能性

 

このように考えていきます。

実際には昔の病気があったかどうかや健康診断を受けているかなどもう少し細かく話を聞いたりします。

鑑別診断

心臓の病気?     → 心電図検査・胸部X線検査

胃腸の感染症?    → 採血検査

肝胆膵の病気?    → 採血検査・エコー検査

貧血?        → 採血検査

消化管出血?     → 胃カメラ検査、大腸カメラ検査

 

この例ではまずこういう風に考えて検査を組んでいきます。

どちらかというと見逃してはいけない病気を見逃さないようにと心がけます。

この例だと「胃癌による消化管出血が怖い、胃癌ではなくても胃潰瘍の出血かも」と心配するだろうと思います。

臨床推論と鑑別診断と検査

ある一つの検査の結果が出ると、臨床推論はその検査結果によってまた変化していきます。

例だとまず心電図検査をしてみて心臓の病気が否定的と考えることができれば、心臓の病気はとりあえず違いそうだと考えます。

胸部大動脈の病気だとCT検査をしないとわからないかもしれませんから、全ての心臓や血管の病気が違うとは言えませんが、この例だと便が黒いなど胃腸を積極的に疑う証拠があるために、心臓は心電図が正常ならまず病気を絞り込むターゲットから外して考えることでしょう。最初から心電図ではなくて胃腸検査をお勧めすることだってあるかもしれません。

一つの検査をすることで随時臨床推論が変化して結果が出るたびに鑑別診断や次に行うべき検査は変わってきます。

検査の選び方

検査を考える時には検査を受けるかたの負担の少ない検査は必要と思えばすぐにお勧めします。

例えば心電図検査や単純X線検査やエコー検査は検査を受けるにあたってあまり苦痛を伴いません。ですから必要と思えばすぐに施行させていただきます。

採血検査は皮膚を通じて血管に針をさす必要があるので痛みを伴いますが、そんなに大きな問題となる苦痛ではないと考えています。もちろん、お好きな人は余りいらっしゃらないでしょうし、子供ではかなり大変ですが。それでも採血ではそういった少しの苦痛を我慢していただければかなりの情報が得られるのでよく施行させていただきます。

胃カメラ検査は必要であればお勧めしたいと思いますが、朝食(時間によっては昼食)を食べていないのが条件になってきますのでいつもできるわけではありません。

また、胃カメラ検査は検査を受ける人が苦痛を感じることもよく考えなければいけません。私も時々受けることがありますが、決して楽な検査ではありません。この検査は嫌だと拒否される方も多いです。

しかし、例としてあげた方のように、胃癌や胃潰瘍が心配な方の場合には強くお勧めすることになります。

 

お勧めする検査を拒否される場合

検査はあくまでも検査を受ける方の同意があってはじめてできることです。ご本人が受けることを同意されない検査は施行できません。

ですから、「やりたくない検査は受けない」という自由はあります。あまりオススメはしませんが。

医師からすると困るのは「検査は受けたくないけど病気は見つけて欲しいという希望」です。

必要な検査を受けなければ病気が体の中に潜んでいても見つけることは困難です。

例に挙げた事例では胃癌が心配なのですが、胃カメラをしないのであれば胃癌を見つけることは困難でしょう。ですから、「胃カメラを受けない自由」をもし行使された場合には「胃癌や胃潰瘍があるのにそれを見つけられない結果」を伴う可能性があります。その結果の可能性まで考えてそれでもなお検査をしたくない場合、つまり「胃癌や胃潰瘍があっても放っておいて良い、ひいては胃癌や胃潰瘍のために命が危険に晒されても良い」と考えていらっしゃる場合には胃カメラ検査はする必要はないことになります。ただし、そういった普通ではない選択をされる場合にはご本人だけでなくご家族も検査をしないことについてご理解して納得されておかなければいけないと考えています。

最初に病気を疑う推論の段階でこういった極限まで詰めて考えて検査をお勧めするのは難しいこともあります。あくまでも推論で病気があると決めつけることはできませんし、もしかすると脅かしすぎになってしまいますから。ですからちょっと様子を見ることはあるのですが、少しでも病気を見逃さないという立場にたつとちょっとした心配でもきちんと検査をしたくなるものです。

 

私は上記のような順番で考えて検査をお勧めしています。検査を受けていただくときには検査を受けるご本人が納得して受けていただくのが良いと考えています。

なるべく病気があったら見逃さずに指摘したいと考えていますが、その病気が恐ろしい病気か、様子を見て良いかでも扱いがずいぶん変わってきます。あまり大したことのない病気に大騒ぎしても困りますし、恐ろしい病気をいい加減に様子を見て悪化させてもいけません。

また、検査を受けたくないとおっしゃる場合には検査をお勧めする理由やその検査をしなかった場合に考えられる恐れをお話しして、検査の必要性についてよく考えていただくようにしています。検査は必要性が考えられてお勧めしていることですから受けていただきたいとは思いますが、無理強いはしないようにしています。病気やその可能性があっても様子を見たいという方には(決してお勧めはしませんが)検査を受けずに様子を見る道を選ぶ自由はあると思います。ただ、後で取り返しがつかなくなったときに後悔しない選択をしていただきたいと思います。

当院で検査を考慮したり、検査を受けるにあたってわからないことがあればぜひお尋ねください。

 

20170926 矢ヶ部伸也