在宅医療について⑦~生命至上主義から尊厳を尊重する医療へ~
院長ブログ22
生命至上主義から尊厳を尊重する医療へ
がんの末期の方が最期に心肺停止となってから心臓マッサージ、人工呼吸を行うという延命治療が本気で行われていた時代がありました。患者さんが一分一秒でも長く生きることを是とし、患者さん本人の苦痛や希望よりも延命が優先されたのです。そのような例は現代でもないとは言えません。認知症などのため食べられなくなったら胃ろうを入れ、本人の意志とは関係なく栄養を入れ続けることもあります。しかしそれらの治療が患者さん本人の幸福に寄与していると言えるでしょうか。
「あなたが老いや病で衰弱し、食べられず、病気が回復が困難な状況である時、胃ろうをされて生きていることは幸せですか?」と質問すると、ほとんどの方は「そういった延命は選ばない。胃ろうなどしたくない。」と答えます。ところが、「あなたの親が老いや病で衰弱し、食べられず、病気が回復が困難な状況である時、胃ろうをして生きていて欲しいですか?」と質問するとかなりの方が「胃ろうをしてほしいと思う」と答えます。自分なら嫌だけれど親にはしてほしいというのは矛盾ですが、親には生きていてほしいという自然な心の現れとも言えます。単純に割り切ることのできない難しい問題です。
生命至上主義のほうがわかりやすい医療です。病気と徹底的に戦い、食べれなくなったら胃ろう・点滴、息が止まったら人工呼吸器と徹底的に死を先延ばしにする医療はもしかすると医師にとっては集中治療・高次医療としてやりがいを感じやすいかもしれません。しかしその弊害として様々なチューブが体に挿入され、むくみや痰の増加など様々な症状がおこり、患者さんは多くの侵襲に耐えなければなりません。
そういった生命至上主義の反省として、患者さんの尊厳を重視する考え方が唱えられるようになってきました。患者さん本人や家族がその人生において何が大切かをよく考え、回復の見込みが厳しいときにはどこまで積極的な治療をするのかを医療者の説明のもと話し合い、治療の侵襲と効果が見合わない場合には積極的な治療をやめて緩和ケアだけ行います。話し合いで患者さんや家族が本当に求める治療を提供することで患者さんの尊厳を守ります。