佐賀市木原の矢ヶ部医院│医療法人純伸会

COPD;慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)の方やご家族に卒煙をお勧めする理由


  • 気づかないうちに少しずつ悪化。

  • 基本的に治せない。

  • 症状がでたらその後一生息苦しい。

  • 陸で溺れて死に至る。

  • 卒煙以外に対処法なし。

肺の働き

肺は空気中の酸素を体に取り込んで、二酸化炭素を吐き出すという、「ガス交換」を行っている臓器です。ガス交換のためには「表面積が広いこと」が大切です。熱交換を行うラジエーターも表面積が広いことが大切なことに似ています。広い表面積を確保するために、肺は気管支が枝分かれしていった先端に、肺胞と呼ばれる風船のような構造の集まりがあります。肺胞の表面に毛細血管が網状に走っており、ガス交換を行うのです。

タバコの煙に含まれる微粒子pm2.5

タバコを吸うと、タバコの煙に含まれるpm2.5と呼ばれる微粒子がたくさん吸い込まれます。天気予報で時々報道されるpm2.5の濃度の基準値は15μg/m3とか35μg/m3ですが、タバコの煙に含まれるpm2.5は桁違いに高濃度です。おそらく万の単位で入っています。禁煙学会の報告によるとタバコの煙が漂っている自由喫煙(当時)の居酒屋で測定したpm2.5でも500〜600μg/m3という数値です。

pm2.5が肺胞を破壊する

pm2.5が問題となるのは、粒子が小さくて肺胞に届いてしまうということです。もう少しサイズの大きいホコリや空気中の粒子は気管支で捕まって肺胞まで届きません。肺胞に届いたpm2.5は肺胞の壁で炎症反応をおこし、肺胞の壁を溶かしてしまいます。溶けてしまった肺胞の壁は基本的には治りません。怪我などで指を切断してしまったら指が再び生えてくることはないのと同じくらい治りません(溶けてしまうと絶対に治らないことが一般の方でもわかるようにこのような表現をしています。)肺胞の壁は溶けてしまうと表面積が狭くなってゆき、ガス交換の能力が失われてゆきます。

気づかないうちに進行する肺気腫

肺には余力がたくさんあるため、最初のうちは自覚症状がありません。ご本人は病気として感じられません。肺の余力は普段は殆ど使わないからです。肺の余力を使うような行動、走る、階段を登るなどの行動で肺の余力を使ったときに肺の機能が失われていることを感じやすくなります。タバコを吸う人が運動会などで久しぶりに走ったらとても息苦しいかったなどはこの例です。歩くときに使う肺の機能を余力が下回ったら、歩いただけでも息苦しくなります。さらに肺が壊れたら、じっとしていても、寝ていても息が苦しくなります。気づかないうちに少しずつ悪化してゆくのです。

手遅れになることもある

苦しくなってから相談しに来られる患者さんもいらっしゃいますが、残念ながら進行してしまったCOPD(肺気腫など)は、気管支拡張薬などの吸入薬でいくらか呼吸が楽になるような対症治療はできますが、根本的に治すことはできません。頑張ってもそれ以上悪化することを防ぐことくらいです。今の医学では、COPDが進行してしまった人は息苦しさは治せないのです。酸素ボンベを持ち歩いていただく治療を行うこともあります。

高頻度に起こるCOPD

COPDになるかならないかはタバコの煙と体質との相性もあり、タバコを吸う方、副流煙を吸う方の中で、約3人に1人がかかってしまう病気と言われています。COPDの可能性を指摘された時点から、タバコの煙を避け、病気の進行を抑えることが最も大切な治療です。

地獄の苦しみの中で亡くなっていった田中さん

ある患者さんのお話です。田中さんという男性の方で、風邪をひいたときなどに受診される方でした。ヘビースモーカーで、いつもタバコのニオイがプンプンしていました。受診されるたびに「タバコをやめましょう。せめて減らしましょう。」とお話していましたが、「死んでもタバコはやめない」と言われていました。しかし段々とCOPDが進行して、段々と息苦しくなり、ご自宅で酸素濃縮器を使った在宅酸素療法を開始して、それでも苦しくて最期は息苦しさのためにほとんど寝たきりでした。毎晩毎晩寝ていると息が苦しくなって、ゼーゼーするので「どうにかならないか?」と相談されますが、気管支拡張薬を使って、酸素も使って、それでも苦しいときには医療用麻薬で苦痛を和らげたり、鎮静薬で眠ったりするくらいしか方法はありません。麻薬は嫌だと拒否されたので、苦しいときはご家族に背中を擦ってもらうくらいしか対処法はありません。「陸で溺れる」とよばれる地獄のような息苦しさの中で過ごす羽目になってしまいました。亡くなる2週間ほど前に、「タバコを吸ったことをどう思うか。」と尋ねたところ「Time is gone. (もう手遅れだよ。)」とおっしゃいました。田中さんと奥様はタバコを吸っていたことでこんなに苦しむ羽目になったということから、タバコを吸っていたことをとても後悔していました。その後悔から、「自分の名前を使ってでも、タバコの害をもっといろんな人に知ってほしい、この苦しみを多くの人に知ってほしい。」と、矢ヶ部医院のタバコの害のお知らせにご協力いただくことを生前のご本人も遺族となった奥様も快諾されました。

COPDに対して医学はほぼ無力

我々医師はタバコのためにこのような大変な苦しみを味わう羽目になってしまった人々をたくさん診ています。こういった病気はなってしまうとほとんど治せないため、医学の無力をそのたびに実感してやるせなく感じますし、やはり、タバコをやめていただくことは大切だと、そのたびに思います。

本当にタバコの怖さがわかっていますか?

タバコを吸うかたの中には、「自分にはタバコを吸う権利がある」「人がせっかく楽しみで吸っているのにじゃまするな」などとおっしゃる方もいらっしゃいますが、そのタバコがあなた自身や家族を傷つけ(副流煙でもCOPDになります。むしろ副流煙のほうが危険という説もあります。)、場合によっては上記のような苦しみの中に追いやられてしまうことを本当にご存知ですか?知っていたらとても恐ろしいことです。知らないから、平気で居られるのではないでしょうか。

タバコを吸うことは依存症という病気です。禁煙外来で治療を。

タバコは依存性があるため、やめたいと思っても簡単にはやめられません。

当院では禁煙外来という、タバコをやめるサポートの治療にも取り組んでいます。

タバコはやめたいけどやめられないという方がいらっしゃいましたらぜひご相談ください。